01. PROFONDO ROSSO サスペリア2のテーマ (赤い深淵) (Simonetti-Morante-Pignatelli-Martino) 3:43
云わずと知れた大ヒットスコア。ガットG+チェレスタによるイ短調ダイアトニックの分散リフ、1万5千本のリードを備えた荘厳なチャーチ・オルガンとアグレッシヴなリズムが融合する1曲。スポットで登場するアナログリヴァーブ仕様のミニムーグも、ゴシック的な基本イメージの特異なアクセントに。ゴシックの様式美とシンプルさを売りにする永遠の名曲。この手のサウンドが欧州のポップチャートを席捲したと云うのも、「エクソシスト」で脚光を浴びたオールドフィールドのTBの余韻も覚めやらなかった当代ならではの事。ダイアトニックの分散リフが潜在的にある種のトレンドのように捉えられていた時代ならではの現象だった事にも違いはないが、それにしても、訴訟にまで発展すると云うのも如何なものか。この曲、全くのオリジナルなので。
この曲のモチーフは僅かに2つ。AAEAADAACAGBBF(7/4拍子。全て8分割)+AAEAADAACAGBBFCF(8/4拍子。全て8分割)と云う2小節でワンセットの全編の大半を占めるモチーフと、序盤と終盤に登場するAm/Em/D/E(4/4拍子。全て2分割でAをルートにするトライアド)の4小節をリピートする8小節のテーマだけ。ちなみに、チャーチオルガンのメロが登場する中盤のパートも、7/4拍子と8/4拍子でワンセットの最初のモチーフにメロ(ABGGbCD#E)を付けただけ。厳密に言えば、これら2つのモチーフをつなぐ3/4拍子3小節(F/C/F)のブリッジも登場するが、基本的には2つのモチーフだけで構築されたイ短調のシンプルな旋法だったと云う事。要は、このブルースよりもシンプルな旋法が訴訟問題になるとすれば、作曲は商売として成立しなくなると云う話。ちなみに、7/4拍子と8/4拍子がワンセットの全て8分割のモチーフも、"Tublar
Bells"とは全くの別モノ。異なる系列の拍子を循環させる中でのアルペジオのアイディアが模倣だと騒がれた日には、これまた作曲ビジネスは成立しなくなる事に。後年、サスペリアの"Markos"でも似たような問題が起きているが、これってマジでつまらない話。と云うか、あまりに低次元。音楽には造詣も深くない民事関係者を交えての論争など全く想像出来ないが、何れにせよ、この"Profondo Rosso"と"Markos"の場合、問題視されたチネヴォックス側が逆に慰謝料取れるようなケースだったと云う話。 |
02. DEATH DIES 死の滅亡 (Simonetti-Morante-Pignatelli-Marangolo) 4:42
ハープシコードの第2音域E弦(時折Gも)をひたすら打ち鳴らすリフ、16刻みのハットワークやライドとのコンビがスリリングなナンバー。劇中でも幾度か登場するスコアだった事を考慮すれば、モードなソロを聴かせる訳でもない音階楽器のアプローチにも甘んじて肯ける。リリース当時は明かされる事もなかったマランゴーロの参加だが、タイトなチューニングのスネアやハットワークのシンコペアクセントなどを聴けば、「ローラー」のタイコの人だと云う事も明らかだった。75年冬の国内ツアーでもプレイされていた曲。 |
03. MAD PUPPET マッド・パペット (Simonetti-Morante-Pignatelli-Martino) 5:51
SE的なアプローチのミニムーグ、ティンパニとスネアをパラレルに収録するパーカスセクションもおどろおどろしいイントロながらも、その実、ドラをキッカケにする以降のテーマは、ホ長調の調性による3コードのみ(E7/A7/B7)でのバリバリのメジャーブルース。12小節で1コーラスのトラッドな形式ながらも、各小節を4倍のサイズでカウントする上に分散コードのリフのみが延々と続くサウンドは、鑑賞の喜びを満喫するにもほど遠い印象。ただ、これもまたスコアだったと云う事で。トータル3コーラスと云う構成だが、3コーラス目のハーモニー隊はドミナントモーションでカットアウト。1コーラス目のサブドミ4度7th(A7)に移行する部分からアルバムでは唯一となるハモンドも登場。 |
04. PROFONDO ROSSO (Re-mix) サスペリア2のテーマ (リミックス) (Simonetti-Morante-Pignatelli-Martino) 5:15
初ミックスとなる冒頭のSEはもとより、リヴァーブ処理が絶品。リミックスと云うより、トラックダウン済みの一つのテイクにそのままリヴァーブをかけたようなイメージだが、フツーにカッコイイ。各コーラスをつなぐブリッジで登場するフェアライトのようなSEも絶妙。なかなか終わらせようとはしないエクスパンドの構成もイイ感じ。 |
05. SUSPIRIA サスペリアのテーマ (Marangolo-Morante-Pignatelli-Simonetti) 5:59
歌詞カードに起こされても困るような不気味なスクリプトは、シモネッティのパフォーマンスによるウィスパリング。シモネッティの談話によれば、1500〜1600年代のラテン歌詞付きの旋律をモチーフにしたと云う楽曲だが、そのモチーフとなったアイディアを寄稿したのは、アイリーン・マラテスタと云うチネヴォックスのプロモーションに携わっていた事もあるギリシャ人女性。アルジェントが中世の魔術的なエッセンスの漂う古代の音楽をリサーチしている事を聞きつけたアイリーンは、その「木の上の3人の魔女」"Le tre streghe sull'albero" ("Three witches
on a tree")と題されたラテン歌詞付きの旋律をプロダクションに冗談半分で送り付けるが、一方のアルジェントはフィルムのコンセプトにもリンクすると深く感銘、太鼓判が押された事でゴブリンの面々にGOサインが出されたものだった。
チェレスタの1度(8va)/5度/1度の分散を除けば、DEFA/GFG休/FGAD/D♭D♭D休(4/4で4小節分)と云うベル音のトップだけになるテーマのリフだが、恐らくは「木の上の3人の魔女」と云うモチーフもそんな童謡のような単旋律のリフに乗せて歌われていた素材だったのかも。そんな親しみやすいイージーなリフとお化け屋敷のようなワクワク緊張感が融合すれば爆発的な知名度を得たのも然るべきと云った所だが、そんな中でもなかんずくでの個性を演出していたのは、ギリシャの弦楽器ブズキやインドの打楽器タブラなどのマイナーな楽器。民俗音楽でプレイされるブズキやタブラのサウンドなどは、それぞれフツーに聞き流せばどこまでもフツーの楽器だが、ワールドワイドなサントラ音楽にひょっこり登場するブズキの場合「判別不能な楽器=謎のサウンド」と云う直感的なイメージに連結、一方のタブラの方は不気味な残響処理が功を奏する形で異彩を放っていた。
個人的にもこのテーマ曲には絶句させられたが、その理由と云うのも序盤と終盤のテーマのリフなどではなく、ダイナミックな中間部があまりにカッコ良すぎたため。ソリッドな2拍3連が炸裂する中間部のダイナミズムには手放しで卒倒させられた。しかもこのパート、Dmでの一発勝負。マイナートライアドのワンコードながらも、アタックの鈍いメロトロンによるチャーチなサウンドも大きな魅力。フィルムではエンドクレジットの炎上シーンで挿入されていたが、終わり良ければ全て良しと云う事で映画の方に惚れ込んでしまったのもそんな理由を経ていたから。この「サスペリア」は中学生の時に観た作品だったが、あの劇場でのエンドクレジットの衝撃は今なおもフリーズされたままだったりする。 |
06. WITCH 魔女 (Marangolo-Morante-Pignatelli-Simonetti) 3:10
ティンパニの残響処理、オバチャン的な生ヴォイスとメロトロンのクワイヤ、フランジャーがかった低音レンジでのユニゾンなど、過去のホラー系サントラでもここまでヴィヴィッドなインパクトと云うのも記憶にない所。リフのユニゾンを奏でるベルツリーなども実に効果的。隣近所に聞こえる音量で鳴らすには抵抗を覚える曲だが、これって実は、ステージで再現してみてもインパクトがあるスコアなのかも。シェークスピアのイメージにもリンクするのだが。 |
07. SIGHS 悪魔たちの囁き (Marangolo-Morante-Pignatelli-Simonetti) 5:18
ルナティックなブズキのサウンドを背景にアコギがグルーヴする異色のナンバー。地を這うようなスーパーバリトンの呻き声からアルトまでの多様なクワイヤも立役者の曲だが、そんなクワイヤ系のパートを取り去ってしまえば、恐らくは「カッコイイ」と云うイメージのナンバー。俄然盛り上がるクライマックスは、稀代の悪魔系ホラーたるフィルムのプロットを集約。重厚なメロトロンと複数の生ウィスパーで構築されるポリフォニックな空間は圧巻。公開当時、学園祭などでの怖がらせ系イベントでも重用されたのが2曲目とこの曲だった。 |
08. MARKOS エレナ・マルコス (Marangolo-Morante-Pignatelli-Simonetti) 4:05
システム55のシークエンスフレーズ、フランジャー+ディストーション系のリッケンバッカー、ロガン社の鍵盤ストリングス(メロトロンかも)、切れ味鋭いパーカッションのコンビネーションで構成されるナンバー。特筆すべき点は、ストリング系以外の鍵盤フレーズは、ウィットの効いたクライマックスまで全てがプログラムだったと云う辺り。
それにしても笑えるのが、フィリップ・グラスのアルバム「2つのページ」の収録曲「同じ動きの音楽 "Music In Similar Motion"」と「エレナ・マルコス」の類似性が真しやかに囁かれている事。IMDbの「サスペリア」紹介ページなどでも音楽の項目で堂々と名を連ねるフィリップ・グラスだが、これって実はお門違いも甚だしい。一言で云えば、「エレナ・マルコス」はCm7一発のジャムナンバー。完全4度でのハモリは常に付きまとうものの、基本的な分散フレーズは、16分割で4小節にすれば「CE-CE-/CE-CE-/CE-FG/FGFE-」と「FE-CE-/FE-CE-/FGB-C/B-CB-G」("-"はフラットの意)と云う2つだけ。そんな虎の子の分散フレーズを背景に、ピニャテッリのリッケンバッカーがテンションもせいぜい9th程度でジャムると云うナンバーが「エレナ・マルコス」の正体。となれば、一つのモチーフをテーマにさり気ないヴァリエーションを真骨頂にする「同じ動きの音楽」とはコンセプト以下何から何までもが全く別。と云うか、Cm7一発で4/4に終始する伴奏トラックをシンセのアルペジオにしただけで「真似してる!」と云われたような暁には、音楽の世界も当の昔に破滅していたはず。アカデミックなコンセプトを実践したフィリップ・グラスが実際にゴブリンを訴えたとは到底思えないもので、この話題についてフィリップ・グラス本人やゴブリンの面々がどう関わっていたのかなども個人的には全く興味なし。何故ならば、これってホントに稚拙なケースなので。と云うか、トーシロを相手に法廷などでその違いを証明するのも、ミニ鍵盤でも1台あれば余裕でOKってなケース。Cm7の分散ノートを全音符タイのウンコ弾きにでもしていれば、どこが似てるの?とか云われるケースなんですよ。一方の「同じ動きの音楽」は、ウンコ弾きに出来るような楽曲じゃないでしょって。個人的にはフィリップ・グラスもゴブリンも大のお気に入り。だから余計アホらしく思える。 |
09. TENEBRE シャドーのテーマ (Simonetti-Morante-Pignatelli) 4:27
ヴォコーダープラスとマリンバ系音色のユニゾンによるイントロ兼トップのパート、ミニムーグによるテーマのパート、モランテのスライド2小節やティンパニ他の生パーカスをフィーチャーする重厚なオルガンのパート、Gm/A/Bbのトライアド分散を各2小節ずつ繰り返すオルガンのパートなど、各種機材の長所を生かす鍵盤サウンドが真骨頂のテーマ曲。レフトチャネルで大いにアピールするピニャテッリの16分割フレットレスもかなりアカデミック。今更ながらの印象ではヴェロシティもフラットな印象のDMXだが、Gm/A/Bbのトライアド分散のパートでスネアの音色を変える効果は絶大。と云うより、リリース当時は衝撃だった。ちなみに、シモネッティのインタヴューによれば、「パオウラ、パオウラ・・」と聴こえるヴォコプラのフレーズは、実際に"Paura, paura..."と歌っていたとの事。 |
10. FLASHING 殺人鬼のテーマ (Simonetti-Morante-Pignatelli) 6:22
ハットやシンセリフのみならず16分割でのキックも飛び出すこの曲は、意図的に生のアンサンブル感覚とは決別する生粋のシークエンス楽曲。個人的には、70年代の関西ユニット"Dada"を連想。中盤過ぎで登場する16分割のハット+パーカスのDMXユニゾンは出色。モランテもさり気なくアピール。生のティンパニも飛び出すクライマックスは、大音量で楽しめば結構な迫力。劇中では、凄惨な殺戮シーンなどで登場。 |
11. WAITING DEATH 死の影 (Simonetti-Morante-Pignatelli) 4:13
テーマ曲のヴァリエーション。劇的なオルガンサウンドによるイントロなどはさて置き、1曲目のミキシングソースからフレキシブルにトラックを抜き去ったマイナスワンのような感じのヴァリエーション。モランテのディストーションが1曲目より鮮明に楽しめる辺りは好感度大。前曲を引き合いに出せば、こちらの方が「リプライズ」と云うイメージに近い。 |
12. TENEBRE (reprise) シャドーのテーマ (Simonetti-Morante-Pignatelli) 4:11
いわゆるリプライズ。テーマ曲のヴァリエーション。フィルムが抱える重苦しいイメージや主要キャストのペーソスを代弁するかのようなアレンジは、結構な聴き応えも。分散リフ=テーマリフのユニゾンやカデンツ的なコードストロークでは、アルバムでも唯一となるアコギが登場。 |
13. PHENOMENA フェノミナ (Simonetti) 4:27
ソプラノはピナ・マグリ女史。トレモロアームも印象的なギタリストは不明。CmとGmのみで構成される単刀直入なテーマも然る事ながら、DMXのイケイケリズムにソプラノをブレンドしてしまう辺りは、さすがオペラの本場ならではのマカロニ感覚。と云うか、それでもかなりカッコイイ。8小節1ルーティン(Ab/G/Ab/Bbのトライアドを2小節ずつ)×2コーラスのサビは、トップのAbを起点にする分散フレーズ(G,F,Eb,Db,Eb,F,Db)が落し所。ちなみに、前作「シャドー」のテーマで分散フレーズの起点だったのはボトムのノート。DMXビートとソプラノの融合もロックラ折衷と云ったこの曲、当初は困惑されながらも、最終的にはアルジェントの全面支持を得たらしいが、そんなアルジェントの心変わりと云うのも、一気にヒートアップする映像終盤のアナーキーな仕上がりに結果オーライと云った感覚だったのかも。 |
14. SLEEPWALKING 夢遊病 (Simonetti-Pignatelli) 3:50
4つ打ちキック+16刻みの鋭角なリズムの上でAmとGのトライアドを延々繰り返すリフは、"Sleepwalking"と云うより、当代ならではのダンサンブルなビートでトランスしているようなイメージ。と云うか、クラフトワークの「ヨーロッパ急行」もユーロビートの走りだったと云う事で。全く関係のない所では、後年"NON HO SONNO"に収録される"Killer on the Train"も似たようなイメージなのかも。劇中では、あのゴブリン映像の直後のシーンで登場。 |
15. THE WIND ザ・ウィンド (Pignatelli-Simonetti) 6:55
97年の完全盤では"Insects - Film version suite 2"と云うトラック名で収録されていた1曲。フィルムのエンディングでクレジットされていた"The Insects"(ピニャテッリのソロ名義)と云うナンバーだが、サブタイトルを見た限りではこのトラックがそうなのかなと。実際、各コーラスのイントロ部分に該当するパート(重低音とベルチャイムのようなサウンドをフィーチャーするパート)は、ジェニファーと殺人鬼の母親が殺人鬼の家に到着する終盤のシーンで挿入されていたはず。16分割のストリングス系シークエンスがフィーチャーされるスリリングなパートは、劇中では登場せず。 |